サイクリング中にブレーキをかけるたび「キーキー!」と鳴り響く不快な音、気になりますよね。
周りの目も気になるし、何より「このまま乗っていて安全なのだろうか?」と不安になるものです。そのブレーキ音、実は原因を正しく特定すれば自分で解決できるケースも少なくありません。
この記事では、ブレーキ音が鳴る根本的な原因から、Vブレーキやディスクブレーキ、ママチャリ特有のバンドブレーキやローラーブレーキまで、種類ごとの具体的な対処法をプロの目線で徹底解説します。
清掃や調整の正しい手順を学び、静かで安全なブレーキ性能を取り戻しましょう。
- ブレーキ音の5つの共通原因を網羅的に解説
- リム、ディスクなどブレーキの種類別に具体的な対処法を紹介
- シマノ公式情報に基づいた信頼性の高いメンテナンス手順
- 自分でできる調整とプロに任せるべき作業の境界線がわかる
自転車のブレーキ音が鳴る!考えられる5つの共通原因
- 最も多い原因:リムやローターへの油分・汚れの付着
- ゴムが限界?ブレーキシュー・パッドの摩耗と硬化
- 意外な落とし穴:ブレーキ本体やワイヤーの調整不良
- 雨の日に特にうるさいのはなぜ?水分と異物の影響
- 新品なのに音が鳴る?「あたり」が出ていない可能性
最も多い原因:リムやローターへの油分・汚れの付着

自転車のブレーキから鳴る異音の最も一般的な原因は、ブレーキの摩擦面に油分や汚れが付着していることです。ブレーキは、運動エネルギーを摩擦によって熱エネルギーに変換して自転車を減速させます。このとき、ブレーキシュー(またはパッド)とリム(またはディスクローター)の間の摩擦係数が非常に重要になります。
しかし、チェーンに注したオイルが飛散したり、道路の油汚れが跳ね上がったり、あるいは何気なく手で触れた際の皮脂が付着したりすると、この摩擦面に油膜が形成されてしまいます。油膜は潤滑剤として作用するため、ブレーキが正常に機能しなくなり、ブレーキシューが滑ったり、微細な振動を繰り返したりします。この「スティックスリップ現象」と呼ばれる高周波の振動が、私たちの耳には「キーキー」という甲高い異音として聞こえるのです。
特にディスクブレーキのパッドは多孔質な素材でできているため、一度油分が染み込むと表面を拭いただけでは除去できません。ブレーキの性能と安全性を維持するためには、これらの制動面を常にクリーンな状態に保つことが、異音対策の第一歩となります。
ゴムが限界?ブレーキシュー・パッドの摩耗と硬化

ブレーキシューやブレーキパッドは消耗品です。ブレーキをかけるたびに少しずつ摩耗し、その性能は徐々に低下していきます。摩耗が進むと、いくつかの理由で異音が発生しやすくなります。
まず、ゴムや樹脂でできた摩擦材がすり減っていくと、新品時にあった柔軟性が失われ、素材が硬化していきます。特に長年交換していないブレーキシューは、紫外線や熱の影響でカチカチに硬くなってしまうことがあります。硬化したシューはリムへの食いつきが悪くなり、制動力が低下するだけでなく、表面が滑らかになる「グレイジング」という現象を引き起こし、これが異音の直接的な原因となります。
さらに重要なのは、摩耗の限界を超えて使用し続けることの危険性です。多くのブレーキシューには「ウェアインジケーター」と呼ばれる溝が刻まれており、この溝が見えなくなったら交換のサインです。これを無視して使い続けると、摩擦材がなくなり、土台の金属部分が直接リムやローターを削ってしまいます。こうなると、けたたましい金属音と共にブレーキが全く効かなくなり、非常に危険です。異音は、ブレーキパッドが寿命を知らせる警告音でもあるのです。
意外な落とし穴:ブレーキ本体やワイヤーの調整不良

ブレーキシステムは、レバーからワイヤー、ブレーキ本体(キャリパー)、そしてブレーキシューに至るまで、すべての部品が連動して機能する精密な装置です。これらのどこか一つでも調整がずれていると、バランスが崩れて異音の原因となることがあります。
例えば、Vブレーキやキャリパーブレーキでは、左右のブレーキアームの動きが均等でない「片効き」という状態に陥ることがあります。これは、左右のバネの強さが不均等であったり、ワイヤーの取り回しに無理があったりすることで発生します。片効きになると、一方のブレーキシューだけが常にリムに接触し、引きずり音やブレーキをかけた際の鳴きの原因となります。
また、ブレーキワイヤーの張り具合も重要です。ワイヤーが伸びてたるんでいると、ブレーキレバーを深く握り込まないとブレーキが効き始めません。この深い握りしろは、ブレーキシューがリムに当たる角度や力のかかり方を不均一にし、予期せぬ振動、つまり異音を引き起こすことがあります。ブレーキの性能を100%発揮させるためには、各パーツが正しい位置で、適切な力で連動するよう調整されていることが不可欠なのです。
雨の日に特にうるさいのはなぜ?水分と異物の影響

晴れた日には静かなのに、雨の日や雨上がりに走ると途端にブレーキが「キーッ!」と叫び出す、という経験をしたサイクリストは多いでしょう。これには明確な理由があります。
第一に、水分がリムやディスクローターの表面に膜を作り、一時的に潤滑剤のように作用します。これにより、ブレーキシューが正常な摩擦を得られず、滑りながら振動することで音が発生します。
しかし、より大きな原因は、水分が道路上の砂や泥、金属粉といった微細な異物を拾い上げ、リムとブレーキシューの間に運び込んでしまうことです。水分と混ざったこれらの異物は、まるで研磨剤のような「スラリー」となり、ブレーキをかけるたびに摩擦面を削り取ります。この研磨作用が強烈な振動と騒音を生み出すのです。
さらに厄介なのは、このとき硬い金属片などが柔らかいブレーキシューの表面に食い込んでしまうことです。一度食い込んだ異物は、雨が止んで路面が乾いた後も残り続け、リムを傷つけながら異音を発生させ続ける原因となります。雨天走行後のブレーキ音は、単なる水濡れだけでなく、異物の混入という二次的な問題を引き起こしている可能性が高いのです。
新品なのに音が鳴る?「あたり」が出ていない可能性

新しい自転車を購入したばかり、あるいはブレーキパッドを交換した直後なのに、ブレーキから音が出てがっかりしたことはありませんか。これは故障ではなく、「あたりが出ていない」状態である可能性が非常に高いです。
新品のブレーキパッドやシュー、そしてディスクローターやリムの表面は、ミクロのレベルで見ると完全には平滑ではありません。この状態でいきなり強いブレーキをかけると、表面の凹凸が不均一に接触し、振動や異音が発生しやすくなります。
「あたり出し(またはベディングイン)」とは、この新品の摩擦面同士を意図的になじませる作業のことです。安全な場所で、中程度の力でブレーキをかけたり離したりを繰り返すことで、摩擦熱が発生します。この熱と圧力によって、ブレーキパッドの摩擦材がごく薄い層となってローターやリムの表面に転写されます。この均一な「転写膜」が形成されることで、摩擦特性が安定し、本来の制動力と静粛性が得られるのです。つまり、新品のブレーキから出る音は、最適な性能を発揮するための準備が整っていないことを示すサインなのです。
ブレーキ音を止める!種類別メンテナンスと自転車のプロの対処法
- Vブレーキ・リムブレーキの音鳴り解消法
- ディスクブレーキ特有の音鳴り対策【シマノ公式情報準拠】
- ママチャリ後輪の「キーキー」音、バンドブレーキの宿命と対策
- 静かなはずが「ギーギー」…ローラーブレーキのグリスアップ方法
Vブレーキ・リムブレーキの音鳴り解消法
このフレーム、Vブレーキだと大径チェーンリングに干渉するみたいで
— あらかわばった (@usagin) October 8, 2025
この自転車を組み立てた人の苦労を感じるね pic.twitter.com/q8WMPvzCd0
クロスバイクやロードバイク、シティサイクルで広く使われているVブレーキやキャリパーブレーキといったリムブレーキ。このタイプの異音は、適切な手順を踏めば自分で解消できることが多いです。
まず基本となるのが、リムとブレーキシューの清掃です。油分や頑固な汚れは、パーツクリーナーや中性洗剤をウエス(布)に染み込ませて丁寧に拭き取りましょう。このとき、タイヤのゴムを傷めないよう、クリーナー類を直接吹きかけない注意が必要です。次にブレーキシューの表面を確認します。表面がツルツルに光っていたり(グレイジング)、小さな金属片が食い込んでいたりする場合は、紙やすり(400番程度)で軽く表面を削り、新しい摩擦面を出すことで改善されます。
それでも音が消えない場合の切り札が「トーイン調整」です。これは、ブレーキシューにわずかな角度をつける調整で、異音の原因となる振動を抑制する非常に効果的な方法です。具体的には、ブレーキシューを進行方向に対して「ハの字」になるよう、後方側が前方側よりも0.5mmから1mm程度、リムから離れるように角度をつけます。これにより、ブレーキをかけた際にシューの前方から穏やかに接触し、ブレーキアームの微振動(チャター)を防ぐことができるのです。
ディスクブレーキ特有の音鳴り対策【シマノ公式情報準拠】

ロードバイクやマウンテンバイクで主流のディスクブレーキは、高い制動力を誇る一方で、その構造は非常に繊細です。音鳴りの原因も多岐にわたるため、体系的なアプローチが必要です。
最優先事項は、ローターとパッドの徹底的な脱脂洗浄です。チェーンオイルなどが付着すると、制動力低下と激しい音鳴りを引き起こします。イソプロピルアルコールを清潔なウエスに染み込ませ、ローターの両面を丁寧に拭き上げてください。パッドも同様に洗浄しますが、シマノの公式見解では、一度オイルが染み込んだパッドは性能が回復しないため、交換が推奨されています。安全に関わる部分なので、洗浄で改善しない場合は迷わず新品に交換しましょう。
次に、物理的な調整です。ホイールを回転させ、「シュッシュッ」と周期的な擦過音がする場合、ローターが歪んでいるか、ブレーキキャリパーの位置がずれています。軽微なローターの歪みは専用工具で修正可能ですが、難しい場合は専門店に相談するのが賢明です。キャリパーの位置調整は、固定ボルトをわずかに緩め、ブレーキレバーを握ったままボルトを締め直すことで、ローターに対してキャリパーがセンターに配置され、多くの場合は解決します。
ママチャリ後輪の「キーキー」音、バンドブレーキの宿命と対策
いわゆるママチャリ(シティサイクル)の後輪ブレーキから鳴り響く、あの耳障りな「キーキー!」という大音量。その多くは「バンドブレーキ」が原因です。バンドブレーキは、ホイールハブに取り付けられた金属のドラムを、外側から革やゴムが張られた金属のバンドで締め付けて止める、古くからあるシンプルな構造です。
この構造は、雨水やホコリが侵入しやすく、バンドの摩擦材が摩耗・劣化すると、ドラムとの間で共振を起こし、特有の大きな音が発生しやすいという宿命を持っています。特に雨の日に音がひどくなるのは、水によって摩擦特性が大きく変化するためです。
残念ながら、このバンドブレーキの音鳴りを根本的に解消する有効なメンテナンス方法はほとんどありません。一時的に潤滑剤を試す人もいますが、ブレーキの効きを著しく悪化させるため絶対に避けるべきです。最も確実で安全な解決策は、ブレーキ本体を交換することです。多くの自転車店では、音鳴りがほとんど発生しない「ローラーブレーキ」や「サーボブレーキ」といった、より高性能な後輪ブレーキへのアップグレード交換に対応しています。毎日の不快な音に悩むくらいなら、交換を検討するのが最善の選択と言えるでしょう。
静かなはずが「ギーギー」…ローラーブレーキのグリスアップ方法
自転車のメンテをしました。
— ecar_uk (@ecar_uk) February 18, 2024
・ローラーブレーキの注油
ザラつきのあるタッチになり、
ブレーキが効きすぎる感じになっていました。
・ハブベアリングの清掃、注油
異音がするので確認したところ、
錆でチョコみたいになっていました。
快適になりましたが、
ベアリングは様子見です。 pic.twitter.com/nq1h1CiJbz
静粛性と高い耐久性で評価の高いシマノ製の「ローラーブレーキ」。主にシティサイクルや電動アシスト自転車の上位モデルに採用されています。このブレーキは内部が密閉されており、通常はほとんど音がしません。しかし、長年使用していると、ブレーキをかけた際に「ギーギー」「ゴーッ」といった、こもったような低い異音が発生することがあります。
この音の原因は、他のブレーキとは全く異なります。油汚れや摩耗ではなく、内部に充填されている「専用グリス」が切れてしまったことが原因です。ローラーブレーキは、内部のカムがローラーを押し広げ、ブレーキシューをドラムに圧着させるという複雑な構造をしています。この金属部品同士の潤滑と冷却のために、特殊な耐熱グリスが不可欠なのです。
解決方法は非常にシンプルで、この専用グリスを補充することです。ブレーキ本体には小さなゴムキャップで覆われたグリス注入口があります。このキャップを外し、「シマノ ローラーブレーキグリス」を注入するだけで、驚くほど静かなブレーキ性能が蘇ります。ただし、必ずメーカー指定の専用グリスを使用してください。一般的なグリスでは耐熱性が足りず、ブレーキの故障や事故につながる危険性があります。
総括:自転車のブレーキ音は原因の特定と種類別の正しい対処が解決の鍵
この記事のまとめです。
- 自転車のブレーキ音の主原因は摩擦面の油分や汚れの付着である
- ブレーキシューやパッドの摩おと硬化は異音と制動力低下を招く
- ブレーキ本体の調整不良やワイヤーのたるみも音の原因となる
- 雨天時の音鳴りは水分と異物が混ざった研磨作用によるものである
- 新品ブレーキの音は「あたり出し」という慣らし作業で解消される
- リムブレーキの音には清掃と「トーイン調整」が極めて有効である
- トーインとはシューに進行方向に対してわずかな角度をつける調整法である
- ディスクブレーキの音対策はイソプロピルアルコールでの脱脂が基本である
- シマノはオイルが染みたディスクブレーキパッドの交換を推奨している
- ローターの歪みやキャリパーの位置ずれもディスクブレーキの音原因となる
- ママチャリに多いバンドブレーキの「キーキー」音は構造的な宿命である
- バンドブレーキの音鳴りの根本解決は本体交換が最も確実である
- ローラーブレーキの「ギーギー」音は専用グリス切れが原因である
- ローラーブレーキには必ずシマノ指定の専用グリスを注入する必要がある
- ブレーキのメンテナンスは安全に関わるため自信がなければ専門店に依頼すべきである