自転車のブレーキがキーキー鳴ったり、効きが甘くなったりしていませんか?
安全なサイクリングに不可欠なブレーキの不調は、大きな不安要素です。
この記事では、ご自身でできる簡単なブレーキ調整やブレーキシューの交換方法から、不快な音鳴りの原因と解消法、さらには専門店に修理を依頼する際の費用相場まで、自転車のブレーキに関するあらゆる疑問を徹底的に解説します。
この記事を読めば、あなたの自転車のブレーキ問題を解決し、再び安心してサイクリングを楽しむための知識が身につきます。
- 自分でできるブレーキの基本調整と部品交換の手順
- 不快なブレーキ音の原因と種類別の具体的な解消法
- 専門店での修理費用の目安がわかる料金相場一覧
- 安全走行のために知っておくべき法律と日常点検の重要性
自分でできる自転車ブレーキ修理と調整
- まずはブレーキの種類を知ろう
- 基本のブレーキ調整:効きを改善
- ブレーキシュー・パッドの交換方法
- 不快なブレーキ音鳴りの解消法
まずはブレーキの種類を知ろう

自転車のブレーキ修理を始める前に、ご自身の自転車にどの種類のブレーキが使われているかを知ることが最も重要です。ブレーキの種類によって、構造やメンテナンス方法が大きく異なるため、まずは自分の自転車をよく観察してみましょう。自転車のブレーキは、大きく分けて「リムブレーキ」「ディスクブレーキ」「ハブブレーキ」の3種類に分類されます。
リムブレーキは、車輪の縁(リム)をゴム製のブレーキシューで挟んで制動力を得るタイプです。クロスバイクに多い「Vブレーキ」や、ロードバイクやシティサイクルの前輪で一般的な「キャリパーブレーキ」がこの仲間です。構造が比較的シンプルで、メンテナンスしやすいのが特徴です。
ディスクブレーキは、ホイールの中心にある金属製の円盤(ディスクローター)をパッドで挟んで止めます。悪天候でも安定した高い制動力を発揮するのが最大のメリットで、最近のスポーツバイクの主流となっています。ワイヤーで動かす「機械式」と、オイルの圧力で作動する「油圧式」があります。
ハブブレーキは、主にシティサイクル(ママチャリ)の後輪に使われるタイプで、ホイールの中心軸(ハブ)に内蔵されています。ブレーキ機構が外部に露出していないため、雨や汚れに強いのが利点です。「バンドブレーキ」「サーボブレーキ」「ローラーブレーキ」といった種類があり、特に安価な自転車に採用されるバンドブレーキは、特有の「キーキー」という音鳴りがしやすいことで知られています。
基本のブレーキ調整:効きを改善

ブレーキレバーを握ったときに、スカスカした感触があったり、グリップにレバーがつくほど握り込まないと効かなかったりする場合、ブレーキワイヤーの「遊び」が大きくなっている可能性が高いです。この「遊び」は、ワイヤーの張りを調整することで簡単に改善できます。調整箇所は主に2つあります。
一つ目は、ブレーキレバーの付け根にある「アジャスターボルト」です。これは微調整用のパーツで、手で反時計回りに回すことでワイヤーが張られ、遊びが少なくなります。少し回してはレバーを握り、好みの効き具合になったら、根本にあるロックナットを締めて固定します。ただし、アジャスターを回しすぎるとボルトが抜け落ちる危険があるため、調整範囲は数ミリ程度に留めましょう。
アジャスターだけでは調整しきれないほどワイヤーが伸びてしまっている場合は、ブレーキ本体側で調整します。Vブレーキやキャリパーブレーキの、ワイヤーを固定している「ワイヤー固定ボルト」をレンチで少し緩めます。そして、ブレーキアームを手でリムに押し付けた状態で、プライヤーなどを使ってワイヤーを少し引き、再度ボルトを締め込みます。この作業により、ワイヤーの初期位置が変わり、遊びを大幅に減らすことができます。調整後は必ずタイヤを回し、ブレーキが引きずっていないかを確認してください。
ブレーキシュー・パッドの交換方法
ブレーキの効きが悪くなる最も一般的な原因は、ブレーキシュー(パッド)の摩耗です。シューの表面にある溝が消えていたり、1mm以下になっていたら交換のサインです。安全に関わる重要なパーツなので、定期的にチェックし、早めに交換しましょう。
リムブレーキ(Vブレーキやキャリパーブレーキ)の場合、交換は比較的簡単です。まず、ブレーキ本体のアームからワイヤーを外して、作業スペースを確保します。次に、六角レンチやスパナを使って、古いブレーキシューを固定しているナットを緩めて取り外します。このとき、ワッシャーなどの小さな部品の順番や向きを覚えておくか、スマートフォンで写真を撮っておくと安心です。新しいブレーキシューを、左右や進行方向を間違えないように取り付け、ナットを仮締めします。最後にワイヤーを元に戻し、ブレーキシューがリムの面に均等に当たるように位置を調整してから、本締めします。
ディスクブレーキのパッド交換は、少し手順が増えます。まずホイールを自転車から外し、作業中に誤ってブレーキレバーを握らないように注意します。キャリパーを見ると、パッドがピンやボルトで固定されているので、これをラジオペンチやレンチで外します。すると古いパッドが取り出せます。新しいパッドを入れる前に、マイナスドライバーなどを使って、キャリパーから突き出ているピストンをゆっくりと押し戻す必要があります。ピストンを戻したら、新しいパッドを装着し、ピンを元通りに取り付けます。ホイールを戻した後、ブレーキレバーを数回握ってパッドの位置を馴染ませ、最後にキャリパーの位置調整を行えば完了です。
不快なブレーキ音鳴りの解消法

サイクリング中に鳴り響く「キーキー」というブレーキ音は、本人だけでなく周囲にとっても不快なものです。この音鳴りの原因はブレーキの種類によって様々で、それぞれ対処法が異なります。
リムブレーキの場合、主な原因はリムやブレーキシューの汚れ、またはシューの取り付け角度です。まず、パーツクリーナーやアルコールを染み込ませた布で、リムの側面とブレーキシューの表面をきれいに拭き、油分や細かい金属片を取り除きましょう。それでも改善しない場合は、ブレーキシューの角度を調整する「トーイン調整」を試します。シューの前側が後側よりもわずかに(0.5mm程度)先にリムに当たるように角度をつけることで、振動を抑え、音鳴りを解消できることがあります。
ディスクブレーキの音鳴りは、ローターやパッドへの油分付着が主な原因です。指でローターを触ったり、チェーンオイルが飛散したりしないよう注意が必要です。イソプロピルアルコールでローターとパッドを丁寧に脱脂・清掃することで改善することが多いです。また、新品のパッドに交換した直後は「ベッドイン」という慣らし作業を行うことで、性能が安定し音鳴りを防げます。
シティサイクルの後輪から聞こえる甲高い音は、ほとんどがバンドブレーキの構造的な問題です。この音は清掃では根本的に解決しにくく、最も効果的な対策は、音鳴りしにくい「サーボブレーキ」や「ローラーブレーキ」に交換することです。
自転車ブレーキ修理をプロに頼む判断基準
- 専門店に行くべき症状とは?
- 自転車ブレーキ修理の費用相場一覧
- 知っておきたい高度なブレーキ問題
- 安全を守る定期メンテナンスと法律
専門店に行くべき症状とは?

自分でできるメンテナンスには限界があります。特にブレーキは安全に直結する最重要パーツのため、少しでも不安を感じたり、手に負えないと感じたりした場合は、迷わず専門店のプロに相談することが賢明です。
以下のような症状が見られる場合は、DIYでの修理を試みるのではなく、すぐに専門店へ持ち込むことを強く推奨します。まず、ブレーキワイヤーがほつれていたり、錆びていたりする場合です。ワイヤーは消耗品であり、いつ切れてもおかしくない状態は非常に危険です。ワイヤー交換は手順が複雑なため、プロに任せるのが安全です。
次に、油圧式ディスクブレーキのレバーを握った感触がフカフカしたり、ブレーキ周辺からオイルが漏れていたりする場合です。これはブレーキラインに空気が混入しているか、オイル漏れが発生しているサインであり、「ブリーディング」という専門的な作業が必要です。また、転倒などでブレーキレバーやブレーキ本体(キャリパー)が曲がったり、破損したりした場合も、部品の交換が必要になるため専門店での修理が必須です。
ディスクブレーキのローターが目に見えて歪んでいる場合や、自分で調整してもどうしてもブレーキの引きずりが直らない場合も、プロの診断を仰ぎましょう。知識や経験、そして何より専用工具がなければ、かえって状況を悪化させてしまう可能性があります。「おかしいな」と感じたら、無理せずプロを頼ることが、結果的に安全と安心につながります。
自転車ブレーキ修理の費用相場一覧
専門店に修理を依頼する際、気になるのがその費用です。料金は店舗や修理内容によって異なりますが、一般的な相場を知っておくことで、安心して依頼することができます。多くの店舗では、工賃と部品代が別途かかる点に注意しましょう。以下に、主要なブレーキ関連の修理にかかる工賃の目安をまとめました。
| 修理・交換サービス | 作業内容の目安 | 費用相場(税込) |
| ブレーキ調整(前後) | ワイヤーの張りやシュー位置を最適化 | ¥880 ~ ¥1,500 |
| ブレーキシュー/パッド交換(片側) | 摩耗したゴムやパッドを新品に交換 | ¥990 ~ ¥2,000 |
| ブレーキワイヤー交換(片側) | ワイヤーとアウターをセットで交換 | ¥1,760 ~ ¥2,500 |
| キャリパーブレーキ本体交換 | 前後のリムブレーキ一式を交換 | ¥2,640 ~ ¥3,500 |
| 後輪ハブブレーキ交換 | バンド、ローラー、サーボ等を交換 | ¥3,960 ~ ¥5,000 |
| 油圧ディスクブレーキ・ブリーディング | オイル交換とエア抜き作業 | ¥4,000 ~ ¥6,000 |
ブレーキ調整やブレーキシュー交換といった基本的なメンテナンスは、比較的安価に依頼できます。一方で、ワイヤー交換やブレーキ本体の交換、油圧システムのメンテナンスなど、より専門的な技術を要する作業は工賃が高くなる傾向にあります。
特にシティサイクルの後輪ハブブレーキの交換は、後輪を一度取り外す必要があるため、工賃が高めに設定されています。ここに記載した価格はあくまで目安であり、使用するパーツのグレードや自転車の種類によって変動します。正確な料金については、事前に店舗へ問い合わせることをお勧めします。
知っておきたい高度なブレーキ問題
自転車のブレーキには、基本的な調整だけでは解決できない、より高度で専門的な知識を要する問題も存在します。これらの問題を知っておくことは、プロのメカニックの価値を理解し、なぜ特定の作業を専門店に任せるべきなのかを知る上で役立ちます。
代表的なものが、油圧式ディスクブレーキの「ブリーディング」です。これはブレーキフルード(オイル)を交換し、ブレーキシステム内の気泡(エア)を完全に除去する作業です。ブレーキライン内に微細なエアが混入すると、レバーを握っても力が正しく伝わらず、ブレーキが効かなくなるため非常に危険です。ブリーディングには専用のキットやオイル、そして正確な手順が求められ、作業を誤るとシステム全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、ディスクブレーキの「ローターの歪み(振れ取り)」も専門的な作業の一つです。転倒時の衝撃や、走行中の熱によってディスクローターがわずかに歪んでしまうことがあります。歪んだローターはブレーキパッドと断続的に接触し、「シュッシュッ」という不快な音や引きずりの原因となります。これを修正するには、ローター修正器という専用工具を使い、ミリ単位の精度で歪みを元に戻す繊細な技術が必要です。
さらに、シティサイクルなどに使われるシマノ製のローラーブレーキは、内部のグリスが劣化したり切れたりすると、特有の音鳴りや性能低下を引き起こします。この場合、グリス注入口から専用のグリスを注入する必要がありますが、適切な量や手順を知らないと、かえってブレーキの効きを悪くしてしまうこともあります。これらの高度な問題は、安全のためにもプロに任せるのが最善の選択です。
安全を守る定期メンテナンスと法律
自転車のブレーキ修理や調整は、単に快適性を高めるためだけのものではありません。それは、自分自身と周囲の人々の安全を守るための、法的かつ社会的な責任でもあります。日々のメンテナンスを習慣づけることが、安全なサイクルライフの第一歩です。
乗車前には、簡単な日常点検を行いましょう。覚えやすい合言葉として「ブタベルサハラ」があります。「ブ」はブレーキ(前後輪ともしっかり効くか)、「タ」はタイヤ(空気圧は十分か)、「ベル」は警音器(きちんと鳴るか)、「サ」はサドル(固定されているか)、「ハ」はハンドル(がたつきはないか)、「ラ」はライトと反射材(点灯・汚損はないか)を指します。この数秒のチェックが、大きな事故を未然に防ぎます。
実は、自転車のブレーキには法律による明確な基準が定められています。日本の道路交通法では、自転車は「前車輪及び後車輪を制動すること」が義務付けられており、前後のブレーキを備えていなければなりません。さらにその性能は、「乾燥した平たんな舗装路面において、時速10kmのとき、制動を開始してから3メートル以内の距離で円滑に停止させる性能を有すること」と具体的に規定されています。この基準を満たさないブレーキが不十分な自転車で公道を走ることは、法律違反となり、罰則(5万円以下の罰金)の対象となる可能性があります。
ブレーキのメンテナンスを怠ることは、単なる「効きが悪い」という問題ではなく、法的な安全基準を満たしていない状態であると認識することが重要です。定期的な点検と適切な修理は、すべての自転車利用者に課せられた義務なのです。
総括:安全な走行の要、自転車ブレーキ修理の知識を身につけよう
この記事のまとめです。
- 自転車のブレーキは主にリム、ディスク、ハブの3種類に大別される
- ブレーキの種類によって修理や調整の方法は大きく異なる
- ブレーキレバーの遊びはアジャスターボルトやワイヤー固定ボルトで調整可能である
- ブレーキシューやパッドの摩耗は効きが悪くなる主な原因である
- リムブレーキのシュー交換は比較的容易にDIYが可能である
- ディスクブレーキのパッド交換ではピストンの押し戻し作業が必要となる
- ブレーキの音鳴りは種類ごとに原因と対処法が異なる
- リムブレーキの音鳴りは清掃やトーイン調整で改善することがある
- シティサイクルの後輪バンドブレーキの音鳴りは構造的な問題である
- バンドブレーキの音鳴りの根本解決はサーボブレーキ等への交換が有効である
- ワイヤーのほつれやオイル漏れなど、重篤な症状は専門店での修理が必須である
- 専門店での修理費用は作業内容により異なり、調整なら約1,000円から、本体交換なら数千円が目安となる
- 油圧ブレーキのエア抜き(ブリーディング)は高度な専門作業である
- 乗車前の「ブタベルサハラ」による日常点検は安全のために不可欠である
- 日本の法律では、自転車に前後輪のブレーキを装備し、規定の制動性能を満たすことが義務付けられている

