自転車のグリスを選ぶときは、まず「どの部品の、どの場所に使うか」を決めましょう。グリスが使われるベアリング部やネジ部がある一方、チェーンの日常のお手入れには自転車用油が案内されています。変速ケーブルのように、専用グリスが指定される場所もあります。
僕なら、最初から何種類もそろえるより、予定している整備に必要なものを選びます。ここでは、グリスの役割と使う場所を押さえたうえで、購入候補の見方、専用品との違い、販売店に任せたい作業まで順に説明します。
- 使う部品から決めるグリスとオイルの選択
- 制動面への注油禁止と専用グリスの区別
- 変速ケーブル・カーボン・ゴムの適合条件
- 部品ごとの塗布量と販売店へ任せる判断
自転車のグリスは使う場所から選ぶ
グリスの役割とチェーンオイルとの違い

グリスは、半固体または固体の潤滑剤の一種です。ブリヂストンサイクルは、摩擦する部分を滑らかに動かす役割があると説明しています。自転車では、部品の内部や組み付け部分に使われることがあります。
一方、同社の日常のお手入れ案内では、チェーンやスタンドの作動部などに使うものは「自転車用油」です。チェーンのお手入れが目的なら、まず自転車用油・チェーン用潤滑剤を選ぶ話になります。「自転車の潤滑剤が欲しい」という理由だけでグリスを買うと、必要な用途とずれてしまいます。
| お手入れしたい対象 | メーカーが案内するもの・扱い |
|---|---|
| チェーンの日常の注油 | 自転車用油 |
| ヘッドパーツなどのベアリング部 | グリスが塗布される箇所。ただし車種・仕様による |
| シマノの指定変速ケーブル | 対象マニュアルで指定された専用グリス |
| ブレーキの制動面・タイヤ・リム | 油を塗布しない |
また、グリスの用途は動きを滑らかにすることだけではありません。シマノのSPD-SLペダルでは、クランクに取り付けるネジ部に、固着を防ぐため少量を使う指示があります。同じグリスでも「動く部分の潤滑」と「取り付け部分の固着防止」では目的が違う、と考えると分かりやすいでしょう。
塗る場所はベアリングや取り付け部。ただし車種で異なる
ブリヂストンサイクルがグリスの主な塗布箇所として挙げているのは、ヘッドパーツベアリング部、シートポスト挿入部のフレーム側、シートピンのネジ部、ハンガーベアリング部です。ただし、車種や部品の仕様によって、これらに塗られていない場合や、別の箇所に塗られている場合もあります。
この一覧は、グリスが使われる場所の例です。「自分の自転車でも、この場所を全部グリスアップする」という作業指示ではありません。とくにシートポストは、挿入する面と固定用のネジをひとまとめにせず、説明書がどの面を指しているかまで読むことが大切です。
具体例として、シマノのPD-R9100・PD-R8000・PD-R7000・PD-RS500を扱う説明書では、クランクへの取り付け時にネジ部へ少量のグリスを塗るよう指定されています。ここで対象になっているのは取り付け用のネジ部。ペダルの外側全体へ塗る、という意味ではありません。
なお、このシマノの資料は専門知識を持つ整備者向けです。専門知識のないユーザーが資料を参照して部品を取り付けることは避けるよう明記されています。
使われる場所を知ることと、自分で分解・取り付けを行うことは分けて考えましょう。
ブレーキは制動面とローラーブレーキ内部を区別する


ブレーキの制動面やタイヤ、リムには油を塗布しないでください。ブリヂストンサイクルは、ブレーキの効きが悪くなったり、タイヤが劣化したりするおそれを示しています。金属部のお手入れに油を使う案内があっても、この部分は対象外です。
一方、シマノのインターMブレーキは、内部にグリスが封入されている構造です。整備ではローラーブレーキ専用グリスを使います。外側の制動面に油を付けないことと、指定されたブレーキ内部に専用グリスを補給することは、対象も作業も違います。
シマノの対象インターMブレーキで、ブレーキをかけたときの音鳴り、異常に強い効き、異常に弱い効きが出た場合は、直ちに使用を中止して販売店で点検・修理を受けてください。
シマノは、このうち音鳴りや異常に強い効きについて、グリス不足が考えられると説明しています。ただし、すべての異常がグリス切れとは限りません。BR-C6050-F・BR-C6060-Fで効きが異常に強い、または弱い場合には、パワーモジュレーターの作動不良も考えられるとされています。
音を消すために手元の油を差すのではなく、ブレーキの種類と原因を販売店で見てもらう場面です。
最初の一本は用途と指定を照合して選ぶ
購入時に最初に見るのは、価格や容量より部品側の指定です。たとえば、同じシマノのグリスでも、後述する変速ケーブルにはプレミアムグリスを使わないよう注意があります。「自転車用」「同じメーカー」という条件だけでは、使用できる場所は決まりません。
自転車のメンテナンス用グリスの候補としては、ホーザンの公式案内に掲載されている「PPL-1 ポリリューブ1000」があります。ポリウレアベースで、耐摩耗性に加え、熱変化や耐水にも優れると説明されている製品です。PPL-1は113gのチューブ入りです。


PPL-1 ポリリューブ1000 を探す
この製品を検討する場合も、使う部品の指定に合うことが前提です。耐水性などの特長は購入判断の材料になりますが、それだけで変速ケーブル用やローラーブレーキ用の専用品を置き換えられるわけではありません。まず用途を合わせ、そのあとに容器や容量を選ぶ順番がおすすめです。
チェーンの日常のお手入れだけが目的なら、自転車用油を選びます。専用グリスが指定された整備なら、その指定品を選びます。どの部品を整備するか決まっていない段階では、グリスを先に買わず、車種や部品名を販売店に伝えて相談するところからで十分です。
自転車のグリスを使い分ける条件と整備の判断
変速ケーブルには専用グリスが指定される
シマノのディーラーマニュアルMBSL002では、インナーケーブルとアウターケーシングの滑り合う部分に「SIS SP41グリス(Y04180000)」を使うよう指定されています。円滑な操作のためのケーブルとして、OT-SP41も案内されています。
同じ説明には、変速ケーブルにプレミアムグリスやほかのグリスを使うと、変速機能が低下するという注意があります。これは「より高性能そうなグリスなら代用できる」と判断できない具体例です。対象のケーブルを整備するなら、製品名と品番を合わせて選ぶ必要があります。
また、インナーケーブルにはゴミなどを付けないこと、付いていたグリスを拭き取ってしまった場合はSIS SP41グリスの塗布を推奨することも記されています。グリスが見えるから汚れと考えて落とすのではなく、もともと必要な潤滑剤が付いている可能性を踏まえて扱う箇所です。
ただし、この指定をあらゆるメーカーの変速ケーブルやブレーキワイヤーへ広げることはできません。自分の部品が対象かを確認するのが先です。変速がスムーズにできなくなった場合についても、シマノは販売店への相談を案内しています。動きが悪いからと、種類の分からないグリスを追加する対処は避けましょう。
カーボンへの適合と滑り止めの用途は別に考える


カーボン部品については、「素材に影響しないか」と「その取り付け面に使うものか」を分けて判断します。ホーザンのFAQでは、PPL-1・PPL-2 ポリリューブ1000について、カーボンパーツへの攻撃性がなく使用できると説明しています。これは当該製品の素材への適合に関する回答です。
一方、「SAC-2 スーパーグリップコンパウンド」は、シートポスト、ハンドル、ステムなどをクランプで固定する接触面向けの製品です。必要以上に締め付けず固定力を発揮するためのもので、CFRP、つまりカーボン繊維樹脂に適すると案内されています。潤滑用グリスとは選ぶ目的が違います。
| 製品・確認事項 | 判断できること | 混同しない点 |
|---|---|---|
| PPL-1・PPL-2のカーボン適合 | FAQではカーボンパーツへ使用できると案内 | 個別部品の取り付け指定まで一律に決める回答ではない |
| SAC-2の用途 | クランプする接触面の固定を助ける | ネジ山には塗布しない |
| PPL-1・PPL-2のゴムへの影響 | FAQでは鉱物油ベースに比べ攻撃性が非常に低いと説明 | 全く影響がないとは言い切っていない |
SAC-2には、ネジ山に塗らないという明確な注意があります。「カーボン周辺に使うもの」とだけ覚えると、接触面とネジ部を取り違えてしまいます。固定を助ける用途で検討するときも、使う部品の取り付け指示と、塗布する面を合わせてください。
ゴムについても、カーボンへの回答をそのまま当てはめることはできません。PPL-1・PPL-2のFAQは、ゴムへの攻撃性は非常に低いとしつつ、全く影響がないとは言いかねる、という表現です。「ゴムにも完全に無害」と読み替えず、接触する素材ごとに適合を判断しましょう。
塗る量は部品ごとに違い、一律の量では決められない
グリスの量は、整備する場所の指示に従います。たとえば、前述のシマノSPD-SLペダルの取り付けネジには「少量」という指定です。一方、ハブローラーブレーキのマニュアルにある補給作業では、適量として約5gが示されています。ネジ部とブレーキ内部では、同じ量を使う話にはなりません。
約5gという数値は、当該マニュアルのグリス補給の説明に付いたものです。その図ではBR-C6050-F/C6060-F/C6000/C3000/C3010と、BR-IM31/35の場合を示しています。すべての自転車のブレーキや、別の部品のグリス量へ転用できる数値ではありません。
しかも、整備は量を合わせて終わりではありません。対象ペダルには取り付け時の締め付け指定があり、ローラーブレーキには補給後の効きや音鳴りの確認が求められています。「少し塗れた」「指定量を入れた」だけで、取り付けや整備が完了したとは判断できないのです。
これらはいずれも専門の整備者向け資料の例です。ここでの数値は、部品ごとに指示が異なることを理解するための目安であり、初心者向けの補給手順ではありません。専門知識がない場合や内容が分からない場合は、自分で作業せず販売店へ相談してください。
交換時期と自分で行う範囲はどう判断する?


グリスは、自転車の使用や時間の経過に伴って消耗します。ただし、ブリヂストンサイクルのグリスに関するFAQは、全車種共通の交換月数を示していません。塗布については、安全のため購入店または同社製品の取扱店へ依頼するよう案内しています。
同社の別のお手入れ案内には、チェーンなどの注油部へ自転車用油を1〜2か月に1回注油する記載があります。これは注油部のお手入れ頻度です。
ベアリングを分解してグリスを入れ替える間隔として、そのまま使わないようにしましょう。
自分で行う範囲は、車体の取扱説明書が利用者向けに案内しているお手入れを基準にします。シマノのディーラーマニュアルは、自転車安全整備士や自転車技士など、専門知識を持つ人を対象とした資料です。ウェブで読めるからといって、そのまま初心者向けの分解手順として扱うことはできません。
販売店へ相談するときは、どの自転車のどの部分を整備したいのか、異音や動きの悪さがあるのかを伝えるとよいでしょう。ブリヂストンサイクル車のグリス塗布なら購入店・取扱店へ、シマノの変速操作がスムーズでなくなった場合も販売店へ。グリスを買う前に整備の対象が分かれば、必要な用品と任せる作業を決められます。
自転車のグリス選びと使い分けのまとめ
この記事のまとめです。
- グリスは半固体または固体の潤滑剤で、摩擦する部分の動きを滑らかにする役割がある。
- チェーンの日常のお手入れが目的なら、自転車用油・チェーン用潤滑剤を選ぶ。
- グリスが使われる場所は車種・部品仕様で異なり、代表的な塗布箇所の一覧をそのまま作業指示にしない。
- ブレーキの制動面・タイヤ・リムへ油を塗布しない。
- シマノの対象インターMブレーキには専用グリスを使い、音鳴りや異常な効きが出た場合は使用を中止して販売店へ依頼する。
- PPL-1 ポリリューブ1000は自転車整備用の候補だが、使用する部品の指定との適合が前提。
- MBSL002の対象変速ケーブルにはSIS SP41グリス(Y04180000)が指定され、プレミアムグリスなどでは変速機能が低下するとされる。
- カーボン素材への適合と固定面に必要な用品は別の判断。SAC-2はクランプ接触面向けで、ネジ山には使わない。
- PPL-1・PPL-2は、ゴムへの影響が全くないとは案内されていない。
- 塗布量や整備時期を一律に決めず、専門知識が必要な取り付け・整備は販売店へ相談する。
参考にした情報
- 自転車についているグリスにはどんな役割がありますか? – ブリヂストンサイクルFAQ(一般)
- DM-RAPD001-03_JPN.pdf
- PPL-1/PPL-2ポリリューブ1000はカーボンフレームに使用できますか。 | ホーザン株式会社
- PPL-1 / PPL-2 ポリリューブ1000 はゴムへの攻撃性はありますか? | ホーザン株式会社
- ケミカル(グリス) | 工具逆引き | メカニックアカデミー 【HOZAN】
- MBSL002 | Manuals & Technical Documents
- 日ごろのお手入れ方法を教えてください。 – ブリヂストンサイクルFAQ(一般)
- Green Drive
- DM-HRB001-10-JPN.pdf












